スクランブルエッグ

私による私の為の生存記録

渡せなかったラブレター

先輩が退職した。
優しくて仕事が出来て頼りになる人だった。当然、同僚や後輩にも好かれている。
頼みを断らないタイプの人間だった。当然上司にも好かれていて、それ故仕事を過集中されられて辞めた。人手不足の職場の典型的例である。
だからそんな素敵で穏やかな先輩が、初めて愚痴を零したときは非常に驚いた。そこで評価が変わることはなかったが、ただただ吃驚した。

 

先輩が退職の意を伝えてから、上長からの態度が辛辣になったと聞いた。
普段従順な女が自分の想定の外から反抗してきたことに、上長の弱くて愚かな心は耐えられなかったのだと思う。なんとも惨めでちっぽけな人だ。
哀れな上長の話はさておき。

 

私は先輩からずっと嫌われているのだと思っていた。
私は先輩と違って仕事が出来ないし、よくリカバリーをしてもらっている役立たずだからだ。忙しい時に些細なことで確認をしてしまい、口には決して出さなかったが苛々させてしまっていることを明確に感じることもあった。

先輩はいつも楽しそう(※私の近くにいる人間は皆ほどほどに楽しそう)にしていて、冗談を言って私を可愛がってくれてはいたが、それは出来損ないの後輩を面白味がある『アホの子』として扱っているだけだと思っていた。
先輩達の言う、蓮根ちゃんが休みだと困るという文句は、部署内に言語面で対応できるメンバーが限られるからだとしか思わなかった。
ここで卑屈と勘違いされるのが嫌なので書いておくが、今の職場で〇〇さんと比べて貴方は~と言われたことが複数回ある。つまり私は本当に仕事が並以下なのだ。

 

そんな素敵な先輩は辞めるときに、皆に甘味とメッセージを書いており、隣に座っていた時間が長かった私の分も当然あった。尚、上司の分はない。
メッセージには「頼りになる」「大好き」という言葉があった。(♡マークが書いてあって凄く可愛かった)
信じられなかった。
休日に先輩と会ったのは1回きりだったし、業務外では連絡も取らない。
嘘ではないという事実を理解しながらも、喜び受け止めることが出来なかった。
私は人間からの愛情や絆が全く信じられない身体になってしまったのだ。
(以前別の同僚から聞いた、先輩が私と一番仲が良いと言っていた(先輩がそう思っている)話も当時は現実感が無かったのだが、このメッセージで真実なのではないかと感じ始めた)

 

先輩と最後に交わした言葉や抱擁は全てが本音で、寂しそうな表情も皮膚の温かさも確かに在ったのに、
それらは私の身体をすり抜けて行って心の端に欠片がひっかかているだけなのだ。

私には、貴女が抱いた想いも楽しかった想いも理解できない(抑々、傲慢に他人を理解したいと思わない)けれど、私も確かに先輩が人として好きでした。
恋人ができた貴女は出逢った頃より、格段に美しく可愛い女性になったと思います。
私を特別に気に入ってくれて有難うございます。貴女の人生に多くの幸があらんことを願います。
それではさようなら。